交通事故によるむちうちとは
どんな症状?
通院先や治療法、後遺症について
交通事故のむちうちとは?
交通事故の「むちうち」は、強い外力によって生じる主に頸部外傷(首の捻挫・挫傷)症状の総称です。交通事故による追突や急停止、衝突などで、首がムチのように不自然にしなることから由来しています。「むちうち」は正式な傷病名ではなく、外傷の程度や原因によって医学的に「外傷性頚部症候群」や「神経根症」などと称されます。
むちうちの症状
むちうちの主な症状としては、首の痛み・筋肉の痛み・肩こり・頭痛・めまい・吐き気・倦怠感などが生じます。交通事故の直後は、見た目の大きな外傷はなくても、あとになって症状が現れることもよくあります。
むちうちの症状は主に「急性期症状」と「慢性期症状」に分けられます。急性期症状は、受傷してからおおよそ1ヵ月以内に現れる症状のことです。組織の損傷にともなって痛みが生じます。慢性期症状は、損傷を治療したにもかかわらず慢性的に痛みが続くことをいいます。
むちうちの症状ごとの傷病名
むちうちは、外傷の程度や原因によって多数の症状があり、治療法や治療期間も異なります。むち打ちの種類によるそれぞれの特徴や、主な症状を以下でご紹介します。
頸椎捻挫・外傷性頚部症候群
交通事故によるむちうちで最も代表的なのが、頸痛捻挫・外傷性頚部症候群です。いわゆる首の捻挫で、首の痛み・肩こり・頭痛・めまい・手のしびれなどが生じます。強い衝撃を受けて筋が部分的に断裂していたり、靭帯が傷付いているケースがあります。
主な症状:首の痛み・肩こり・頭痛・めまい・手のしびれ
主な診療科:整形外科
バレ・リュー症候群(自律神経障害)
バレ・リュー症候群とは、自律神経までダメージを受けた場合の重度のむちうちです。頭痛やめまいはもちろん、自律神経が刺激を受けたことで耳鳴りや耳づまり、倦怠感なども生じるといいます。これらの症状は慢性的になりやすく、治療しにくいといわれています。
主な症状:頭痛・めまい・耳鳴り・耳づまり・視力低下・倦怠感
主な診療科:整形外科・神経内科・心療内科・麻酔科・リハビリテーション科・ペインクリニック
神経根症状型
神経根症状型は、交通事故の強い衝撃などで頚椎(首)の骨がズレてしまい、神経が圧迫されることで引き起こる重度のむちうちです。頚椎を通る神経の圧迫により神経伝達が行き届かず、首・手足の痛みやしびれ、顔面痛などが生じます。
主な症状:首や手首の痛み・頭痛(後頭部)・しびれ・筋力低下・顔面痛
主な診療科:整形外科・神経内科・頚椎外科・麻酔科・ペインクリニック
脊髄損傷型
脊椎損傷型は、脊椎損傷により歩行が困難になることもある、最も重度なむちうちです。全身麻痺や知覚障害なども生じる可能性があり、治療には手術や入院がともないます。
主な症状:歩行障害・知覚障害・身体の麻痺・筋力低下
主な診療科:脊椎外科・整形外科・神経内科・麻酔科・ペインクリニック
脳脊髄液減少症
脳脊髄液減少症は、むちうちによる損傷を一因として引き起こる合併症の1つです。外傷によって脳脊髄液が漏れ出して減少することで、頭痛やめまいを引き起こします。起立した状態で下に引っ張られるような強い頭痛が生じ、横になると楽になります。しかし上体を起こして時間が経過すると、ふたたび起立性頭痛を起こすのが典型的な症状です。
主な症状:頭痛・首の痛み・めまい・耳鳴り・倦怠感など
主な診療科:脳神経外科
交通事故でむちうちかもと思ったら?
交通事故直後は大きな外傷がなくても、のちに深刻な症状を引き起こすことがあります。むちうちかも、と思ったら必ず早期に医療機関を受診しましょう。
まずは整形外科へ
交通事故によるむちうちの検査なら、まずは整形外科のクリニックを受診しましょう。治療費は、自賠責保険や労災保険でカバーできる場合がほとんどです。これらの保険を利用する際には、必要書類を事前に準備する必要があります。自賠責保険の利用時には、保険会社に連絡しましょう。労災保険は、労災申請の用紙が必要になります。
労災保険・自賠責保険については、こちらのページでも解説しています。
労災保険・自賠責保険について詳しく見る
交通事故にあった時の対応については、こちらの記事で解説しています。
交通事故にあった時はどうすればいい?対応することから通院の流れまで解説
ただし、むちうちの症状によっては整形外科よりも別の診療科が推奨される場合があります。たとえば、バレ・リュー症候群であればペインクリニックへ、脊椎損傷や脳障害が疑われる場合は、脳神経外科などが適切です。
整形外科が受診可能な当院のクリニック
治療法
むちうちは軽度〜重度のものまで、症状の程度はさまざまです。最も多いとされる首の捻挫などは患部を冷やしたり、首の負担軽減のために頚椎カラーを使用したりすることもあります。むちうちの主な治療法は、次の4つです。
処方された薬を利用する
急性期(初期段階)では、炎症による痛みを抑える消炎鎮痛薬などを用いて、痛み止めを服用します。湿布薬を処方することもあります。
症状に応じて頚椎カラーを処方する場合もあります。
理学療法
理学療法は身体を動かしたり、電気刺激やマッサージなどで身体の運動機能を回復させる治療法です。身体を積極的に動かすリハビリを運動療法、電気や超音波などを用いて機能回復を図る方法を物理療法といいます。初期では安静にすることが基本ですが、2〜4週間後は理学療法でなるべく身体を動かすことが、痛みの長期化を防ぐことにつながります。
物理療法(電気治療)
物理療法(電気治療)は理学療法のなかの1つで、専門の治療機器を用いて物理的な刺激を与え、身体機能の回復や痛みの軽減を図る治療法です。
特に電気治療では、痛みを感じない程度の微量な電流を流し、痛みの伝達を妨げることで痛みを緩和します。血行不良を改善し筋肉をほぐすため、肩こりや腰の痛みにも効果的です。
当院の物理療法(電気治療)について詳しく見る
ブロック注射
鎮痛薬や物理療法などで効果がみられない場合は、ブロック注射を検討することがあります。ブロック注射とは、患部の神経近くに麻酔薬を打つことで痛みを取り除く注射のことです。ブロック注射は痛みを取るだけでなく、神経を落ち着かせる効果もあります。
むちうちの治療期間の目安
むうちうちの治療期間は、症状が軽度である場合3ヵ月が目安です。適切な治療を行えば1ヵ月、長くとも2〜3ヵ月程度とされています。
ただし、重度のむちうちや合併症を引き起こしている場合、治療が長期にわたることがあります。半年以上経過しても完治せず、痛みが続く場合は「後遺障害認定」が受けられます。後遺障害認定を受けることで、慰謝料の請求および労働能力の損失による賠償請求が可能です。
医師にむちうちの症状を伝える際に
注意すること
むちうちの症状を的確に医師に伝えることは重要です。目立った外傷がなく、事故の直後は痛みがなくても、のちに深刻な症状になる可能性があります。
医師にむちうちの症状を伝える際は、次の注意点を押さえておきましょう。
医師に伝える内容を整理しておく
事故に合った直後や翌日は、気が動転していたり、興奮状態であったりする場合があります。いざ医師の診察となると、うまく伝えられないこともあるでしょう。
まずはクリニックに行く前に、伝えたい内容を事前に整理しておくことをおすすめします。また合わせて疑問点や不安点など、診察の際に解消できるようにメモにまとめておくのもよい方法です。
正確に症状を伝える
症状をより正確に伝えることで、医師も適切な治療法を提案できます。事故に遭った際の状況や、どのようにすると痛むのか、どこが痛むのか、誇張なしで率直に伝えるようにしましょう。
首の痛み以外にも、耳鳴り・倦怠感などの症状があればすべて伝える必要があります。むちうちだけでなく、別の合併症も考えられるからです。医師が正確な診断をするためにも、正確に症状を伝えることが重要です。
具体的に症状を伝える
痛みの程度や症状は、目視やレントゲン検査での確認が困難です。患者さま自身が具体的に伝える必要があります。
たとえば具体的な痛みの表現として、ズキズキ・チクチク・ガンガンなどがあります。首や頭痛の痛みひとつとっても、感じ方によって別の傷病も考えられる場合があります。痛みの強さ、頻度なども一緒に伝えるようにしましょう。
なぜ、むちうちの症状の伝え方が
重要なのか
問診により患者さまから得られる情報は、医師にとって大切な情報源です。8割の病気は問診で判断がつくとまでいわれています。むちうちの症状を的確に伝えることの重要性を、今一度確認しておきましょう。
検査で異常を見つけるのが困難であるため
むちうちはレントゲンやMRIなどを用いて検査をしますが、必ずしも検査だけで異常が確認できるとは限りません。また外傷ではなく、内側の筋や神経が傷ついているケースが多いため、目視確認も困難です。
したがって、患者さまからの問診による情報が重要となります。
適切な治療を受けるため
患者さまからのヒアリングした情報は、医師の正確な診断やスピードに大きく関わります。より具体的な症状を伝えることで、医師は適切な治療を迅速に提案できるのです。伝え方が不十分であると「軽度」と診断されて、薬の処方だけで終了となることも考えられます。
早期に適切な治療を受けるためにも、むちうちの症状を的確に伝えるようにしましょう。
医師が症状固定や治療継続の判断を行うため
むちうちの治療費は、労災保険や自賠責保険でカバーできるため、基本的に費用負担はありません。しかし医師が「治った」と判断すれば、治療はそこで打ち切りとなり、補償もストップとなります。この「傷病が治った」の判断は「身体が完全に回復した状態」だけでなく「これ以上治療しても医療効果が期待できなくなった状態」も含まれます。これを「症状固定(治ゆ)」といいます。
つまり、症状がまだ残っている状態であっても、症状の回復・改善が期待できなくなった状態と判断して、治療をストップすることがあるのです。
「症状固定」か「治療継続」かを適切に医師が判断するためにも、治療中は患者さまが症状や要望をしっかり医師に伝える必要があります。
交通事故が要因でむちうちに
なった際に支払われるお金の種類
交通事故によってむちうちになった場合は、加害者側に金銭を請求できます。
治療費はもちろん、主に下記のような金銭の請求が可能です。
- 治療費・通院費
- 入院雑費(入院中の細かな出費)
- 休業損害(休業による収入減に対する補償)
- 入通院慰謝料(入通院による精神的・肉体的苦痛に対する補償)
- 後遺障害慰謝料(後遺症による精神的・肉体的苦痛に対する補償)
- 後遺障害逸失利益(将来的な収入減に対する補償)
後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益は、後遺障害認定を受けることで損害賠償の請求が可能になります。治療後も症状が残ってしまった場合は、後遺障害認定を検討するとよいでしょう。
治療費を打ち切られるケース
治療を受けている最中に、打ち切られるケースがあります。1つは、保険会社より治療が一定期間過ぎたことを理由に「症状固定」の打診がある場合です。本来医師が判断するものですので、保険会社からの打診を鵜呑みにせず、まずは医師に相談してみましょう。
もう1つは、医師から「症状固定」の打診がある場合です。問診や検査結果、これまでの経過などを踏まえて担当医が判断します。治療効果を実感している、または強い痛みが続いているのに症状固定と判断されてしまうことも考えられます。適切な診断を受けるためにも、ご自身の要望も含めて、症状を的確に伝えるようにしましょう。
治療費が打ち切られたときの対処法
治療費が打ち切られた、またはそのような打診があった場合、次のような対処ができます。
- 担当医に診断書を書いてもらう
- 弁護士に相談する
- 自費診療で治療を継続する
まず保険会社より治療費打ち切りの打診があった場合は、担当医に相談して診断書を作成してもらうことが有効です。治療継続が必要である証拠になります。さらに弁護士に相談するというのも1つの選択肢です。
また、治療費を自費診療に切り替えれば、ご自身の納得がいくまで治療ができます。場合によっては保険診療で受けることも可能ですので、担当医にまずは相談してみましょう。
途中で通院を辞めた場合の不利益
度重なる通院や治療がストレスになることがあるかもしれません。治療継続や症状固定の判断は、本来は医師が行います。しかし、自己判断で通院や治療を辞めてしまった場合、次のような不利益をこうむる可能性があるため要注意です。
後遺症が残る可能性が高まる
治療を中断してしまうと、完治できずに後遺症が残ってしまう可能性があります。その後も症状が続き、日常生活に支障をきたすことも考えられます。治療中は医師の判断に従うことが基本です。効果が実感できなかったり、通院にストレスを感じていたとしても、自己判断で治療を中断しないようにしましょう。
保険会社から受け取れる休業損害や慰謝料が減る
休業損害や慰謝料は、通院期間をもとに計算して支給されます。仕事を休んだ日数、治療日数が多ければ多いほど、受け取れる金額も多くなる仕組みです。しかし治療を中断してしまえば、受け取れるはずだった金額も減少します。適切な額の賠償金をしっかり受け取るためにも、途中で通院をやめてしまうのは得策ではありません。
後遺障害認定が受けにくくなる
残念なことに後遺症が残ってしまった場合は、後遺障害認定を受けることを検討します。後遺障害認定を受けることで、賠償金を請求できるようになります。後遺障害認定は、医師が症状固定と診断したあとで、はじめて後遺障害診断書が可能になります。
しかし症状固定と診断される前にご自身で通院を辞めてしまったら、必要書類が用意できずに後遺障害認定を受けにくくなります。のちに後遺症の症状が出始めても、相手側に賠償金請求ができないケースもあるため、自己判断による治療の中断は禁物です。
むちうちの後遺症について
後遺症とは、治療をしたにも関わらず完治せず、痛みや症状が残存してしまった状態のことです。医療効果が期待できなくなった場合、症状固定と診断され、治療はストップします。ここでは、むちうちの主な後遺症の症状と原因をご紹介します。
後遺症の症状
むちうちによる後遺症の症状は、次のようなものがあります。
- 頸痛(首の痛み)
- 腰痛
- 頭痛
- 関節痛
- 手足のしびれ
- 耳鳴り
- 強い倦怠感
後遺症の原因
むちうちの症状がでる頚椎(首)の部位は、神経・血管が複雑に張り巡らされている、身体の大事な器官です。そのため、むちうちによって神経が傷つくと完治が難しく、後遺症として痛みやしびれが残ることがあります。
また筋肉・筋膜・靭帯などにダメージが及んだ際も同様に、痛みやだるさが続く場合があります。
むちうちの後遺症の治し方
後遺症の治療は、専門の医療機関を受診することと、自宅でのケアが基本となります。自己判断でマッサージやストレッチを行うと逆効果になることもあるので、まずは医療機関を受診して相談してみましょう。
専門の医療機関を受診する
交通事故によるむちうちは、神経や筋膜の状態を精査する必要があります。最新の検査機器がある整形外科が推奨されます。
自宅でケアを行う
後遺症による痛みは、自宅でのケア(首の運動など)で緩和できる場合があります。首周りの緊張をほぐして、首の可動域を広げることが痛みの改善につながります。ただし、痛みのない範囲で行うことが鉄則です。痛みが強い、しびれがあるなどの場合は、ケアを控えた方がよい場合もあるため、自己判断で無理に動かさないようにしましょう。